06.恐怖




「ツナ君」
「綱吉君」

 異口同音には少し惜しいが、白い髪と青い髪とは玄関先にぴったり揃って並んでいた。ちなみに、顔は似ていないのに身長や体型は全くと言っていいほど同じで、どちらかがどちらかの身体をそのまんまコピーしたんじゃないかとすら思う。そんなこと口に出して言いはしないけれど。
「ビャクラン、ムクロ! いらっしゃい!」
 笑顔で出迎えた綱吉は、入って入って、と二人を急かしたが、白蘭も骸も玄関にきちんと靴を揃えて行儀良く上がった。そういう細かい仕草も二人は良く似ている。
「「お邪魔します」」
 ぺこりとお辞儀をする角度まで全く同じで、鏡コントでもしてるんじゃないかと疑いたくなって、ふと思いついた。
(このふたりのかがみコント、みてみたいな〜!)
 今日の遊びを密かに決めて、綱吉はウキウキしながら台所に向かって声をかける。
「おかーさーん、おかしとジュース〜!」
 二人を先に二階の自分の部屋に行かせて、綱吉は二人分の飲み物とお菓子を取りに行った。三人分じゃなくて、二人分。なぜかいつも骸は出された物に手を付けなかった。一度理由を聞いてみると、自分達は二人で一人だから一人分でいいんです、と返って来たことがある。その時はなんとなく納得した綱吉だったが、今でも奇妙に思うことはあった。半分コならわかるけれど、いつも白蘭が全部平らげているのだ。いちいち甘いだのしょっぱいだの感想を付けながら。
 つくづく不思議な兄弟だなぁ、なんて思いつつ、二人分のおやつセットが乗ったおぼんを持って、双子が待つ部屋の前で止まる。

「開けて〜」

 二人一緒に開けてくれた。

 











「あ、僕トイレ」
「うん」
 鏡コントをしてもらったり(いつもの二人と大差なかった)ゲームしたりだべったりオモチャで遊んだりしているうちに、オレンジジュースのペットボトルは2本が空になっていた。席を立つ白蘭を見送る綱吉も、そろそろトイレに行きたくなってくる頃合いだ。
 そこでふと、また一つ奇妙なことに気付いた。
「そういえば、ムクロってトイレにいかないよね」
 言った後で、飲まないし食べないのだから当然なのかな、とも思った。それが子供の理屈であることは、綱吉にはわからなかった。
「…白蘭が行っていますからね」
 わかるようなわからないような答えに、綱吉はふぅん、と曖昧な返事を返す。何かおかしいなとは思っても、基本的に考えることが苦手な綱吉は、まあいいか、で済ませてしまう。
(ムクロがそういってるんだから、きっとそうなんだ)
 綱吉は骸がとても頭がいいことを知っていた。なんというか、見た目からしてデキルヒトのオーラが出ていた。もちろん全く同じように白蘭もいいのだろうけれど。

「ただいま〜」

 白蘭がトイレから戻って来た。おかえりなさい、と骸が律義に返す。
「あ、じゃあつぎオレいくね」
 入れ代わりに綱吉が立ち上がり、骸と白蘭を残して部屋を出た。

「「いってらっしゃい」」

 背中に届いた声が、異口同音だった。















 溜まった水分と余ったビタミンCを出し切ってスッキリしたところで、きっちり手を洗って自室のドアノブをひねる。

「ただいま〜ーーーぁっ…!」

 綱吉の語尾が不自然に引き攣って止まる。
 その視線は、自分の部屋で唇を合わせる二人の少年に釘付けになっていた。
「…ん……」
 ちゅっ、と両親が綱吉の額や頬にしてくれるのと同じ音が、白蘭と骸の唇と唇の合わさったところから響いてくる。綱吉が席を立ったほんの少しの間に、部屋の空気は一変していた。これが自分の部屋だなんて思えなかった。なら何の部屋なのかと言われると言葉に詰まるけれど。
(キョウダイって、これがふつう…なのかな…)
 ここ最近、こういうことが増えている気がした。なぜかはわからないけれど、妙に目にする。しかし何度こういった場面に遭遇しても一向に慣れる気配はなかった。そう簡単に享受できるほど、綱吉は大人でもなければ赤子でもなかった。

「…ん…ふっ…」

 ちゅっ

「…はっ…ふ…」

 くちゅ

「んん…」

 水音も息も段々と大きくなっていく。
 綱吉は骸とこういう時の白蘭が苦手だった。
 だって、とても怖いから。

「んっ…ふ…ぁ」

 息を荒げながら、骸の背中越しに綱吉を睨む菫色の眼。見せ付けるように骸を抱く腕。骸に絡み付いて逃がさない足。暴れる唇。ついには床に押し倒して骸を押さえつける身体。

 全部が、怖い。

(ちがう…ちがうよ。ふつうじゃ、ないよね…?)

 でも1番怖かったのは、

「んぁ…ぁっ…ふ…む、くろ君…」

「……」

「むくろ、くん…っ」

「……」

「…んん……っ」

「……」

 骸の、眼。
 無感情で無関心で無表情。その冷たい瞳に何を映しているのだろう。目の前にいるはずの白蘭でさえも、彼の意識に存在しているのかわからない。


(…こわい…)
















 一度だけ、骸と二人きりの時に尋ねてみたことがある。

「ねえ、ムクロはビャクランのこと、キライなの?」
「いいえ」
「じゃあ、スキ?」
「いいえ」
「…どっちなの?」
「綱吉君は、自分の影が好きですか?」
「え、なに…かげ? べつに、スキでもキライでもないよ。そういうものじゃないよね?」
「ええ。そして逆もそうです。影にとって、身体はなければならないけれど、スキだとかキライだとか、そういう枠には入らない」
「…ムクロとビャクランは、からだとかげなの?」
「ええ。だからいつも側にいる必要がある。触れ合っている必要がある」
「…でもそれ、なんかさびしくない?」
「寂しい?」
「うん。からだにとって、かげはひとつしかないんだよ。かげにとって、からだはひとつしかないんだよ。スキになってあげなきゃかわいそう」
「…スキ、になる? 僕が、白蘭を?」
 





 ありえませんよ。






 一瞬、何を言われたのかわからなかった。しかし聞き返す前に白蘭の足音が聞こえて口をつぐむ。

「ただいま〜」

「…お、おかえり」
「おかえりなさい」
「何話してたの?」
「え、えと…」
「クフフ、あとでちゃんと教えてあげますよ」
「うん! 僕らは記憶も一緒じゃないとね!」
「ええ」

 平然と微笑む彼らは、やはりどこか異質だと思った。




















同じであることにこだわる二人ですが、骸さんにとっての白蘭と白蘭にとっての骸さんは違いますよ…というお話。
そこらへんの齟齬が今後の話にも関わってきます。

2008.9.4




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