05.好物




「あ、マシュマロだ〜!」
 おやつに出された白いふにふにしたものを摘んで、綱吉は嬉しそうに声を上げた。しかし白蘭と骸はそれが何か知らないようで、きょとんとしている。
「…マシュマロ?」
「…マシュみゃっ…マすっ…………マシマロ?」
「マ・シュ・マ・ロ!」
「マシュマロ」
「マ、マシュろっ…マシっ………マシマロ!」
 どうしても噛んでしまう白蘭は、拗ねたように口を尖らせた。
「………ビャクラン…」
「………白蘭…」
「いーの! これはマシマロね」
「えぇ〜?」
「おやおや」
 呆れたように苦笑する二人を無視して、白蘭はマシュマロをひとつ摘んで口に放り込んだ。

 ふにっ

「…!」
 口に入れた途端に広がるとろけるような甘みと独特の歯ごたえに、白蘭は一瞬硬直した。
 そして即座にふたつ目を摘み、ぽいっと口に入れる。

 ふににっ

「…!!」
 もう一度硬直。
「ど、どうしたの?」
「白蘭?」
 綱吉と骸が不思議そうに覗き込むと、みるみるうちに白蘭は破顔した。
「マシマロ…おいしー!!」
 ふにふにふにふにとマシュマロを手の上で遊ばせて、白蘭は目を輝かせた。
「ビャクラン、マシュマロすきなの?」
「こんなにおいしいもの、初めて食べた!」
「そ、そんなに?」
「珍しいですね、偏食のあなたが」
「これならいくらへもいけひゃうほ!」
 ぽいぽいいくつも口に含んで、白蘭は至福の笑みを浮かべた。
「…白蘭」
 そんな白蘭を見つめて、骸はねだるように白蘭の指に自身の指を絡ませた。白蘭はにこりと笑ってうなずく。
「ふふっ、あのねぇ、すごく甘いんだ! でね、すごく柔らかくって、舌の上でふわふわ溶けちゃうの! まるで骸君の唇みたい!」
「クフフ、そうですか…」
 興奮する白蘭とは対照的に、骸は微笑みつつもどこか静かだった。
「ムクロ? どうしたの?」
 綱吉が心配そうに骸を窺うが、骸は答えることはなかった。






















「…骸君」
「なんです?」
 綱吉が食べ終えたお菓子のゴミを持って席を外した時、白蘭は今まで浮かべていた笑みを綺麗さっぱり取り払っていた。手にはマシュマロの最後の1個が摘まれ、指の動きに合わせてふにふにと柔らかそうに変形を繰り返す。
「………ここで謝ったら、ちょっと怒る?」
「別に。謝る必要もないですし。今更ですよ」
 顔色を窺ってくる白蘭に安心させるように薄く微笑んで、骸は乾いた声音を響かせた。
「…あのさ、あのね。いつか…いつかさ、君が普通に生きられるようになったら、一緒に甘〜いマシマロ食べてさ、甘いねって笑い合ってさ、早口言葉で舌噛んでさ、痛いねって笑い合ってさ、それからーーー」


「白蘭」


 びくっ

 ひやりとした音に、白蘭は肩を瞬間的に吊り上げた。
「夢物語は結構ですよ。夢を見過ぎれば現実を失う。生憎と僕はリアリストでね。夢など見飽きたんです。…あなたもそうでしょう?」

 だって僕とあなたは同じなんですから。

「…………うん、そうだね。そうだよね…」
 視線を曖昧に揺らして、白蘭は何かを抑えるように自身の胸をきつく握った。
 痛みを、感じる。当然だけれど、当然じゃない。

「……」

 骸は白蘭の視線を掬い取るように身体を潜り込ませて、白蘭の指に挟まれたマシュマロを口に含んだ。
 そして形ばかりの咀嚼をし、単なるブツ切りになったそれを飲み込む。

 こくん、と音がした。

「…………まずい」

 骸が無表情に呟けば、白蘭は少しだけ眉を寄せて、口元だけで笑った。

「…フフ、そうだよね。そう、だよね…」

 大好物になるはずだったマシュマロは、その瞬間から180度立ち位置を変えた。

「うん、僕も…マシマロなんて嫌いだよ」



 …一緒だね。
























白蘭は本当はとてもいい子なんです…!と言いたい。

2008.8.26




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