02.邂逅
「ビャクランくんっ、ムクロくんっ」
「君は付けなくていいよ〜」
「君は付けなくていいですよ」
「じゃあビャクラン、ムクロ、あそぼ!」
ずっと鳥籠の鳥のような生活をしてきた綱吉にとって、友達の家に行くというのは生まれて初めての経験だった。
マフィアがなんたら後継ぎがどうたらと理由を付けて、ファミリーは綱吉をあまり家から出したくないようだが、六道家はすぐ隣なので許可してくれたのだ。
「…あれ、でもこういうとき、なにしてあそべばいいんだろ…?」
綱吉は友達と遊んだことがないので、どんな遊びがあるのかも知らなかった。いつも家で一人、有り余るオモチャを相手に遊んでいたけれど、六道家にはオモチャの類はもちろん、家具すら必要最低限しか置いていない。
「僕らも知らないな」
「僕達も知りませんね」
「じゃあ、いつもふたりはなにしてあそんでるの?」
「…オモチャで、かなぁ」
「そうですね」
「オモチャあるの?」
綱吉はリビングの角から角まで見回してオモチャを探したけれど、やはりソファとタンスくらいしか目に入らない。寝室にはベッドがぽつんとあるだけで他に何もなかったし、隠す場所もない気がする。
「フフ、飽きたら壊して捨てちゃうからね」
「クフフ、壊すのが楽しいんですけどね」
「えーもったいない! すてないでよ〜!」
綱吉の無邪気な発言に、白蘭と骸はくすくす笑った。
「フフ、そうだね、もったいないね」
「クフフ…そうですね」
「あ、バカにしてる!! こわれちゃったオモチャでもあそべるんだよ?」
「へぇ?」
「……」
白蘭はニヤニヤと笑った。
骸は、笑わなかった。
「あのね、じぶんでなおしてあげるんだ! たくさんたくさんかんがえて、いっしょーけんめいなおしてあげると、オモチャもなおりたいっておもってなおってくれるんだよ!」
「うわ、メルヘンな発想! ツナ君て面白いよね〜!」
「あ、よくわかんないけどバカにしてるだろ!!! ホントだってーーー」
「それが最初から壊れているオモチャだったら?」
静かな声のした方を向けば、骸が真っ直ぐな眼差しを綱吉に注いでいた。
綱吉は少し驚いたように目を見開いていたけれど、実はそんな綱吉より、表情を変えない白蘭の方が内心驚いていた。
「どうなんですか?」
骸は気にせず再度問う。綱吉はぱちぱちと瞬きを繰り返した。
「あのさ、さいしょからこわれてたら、それってこわれてないのとおなじだよ。だってきっときづかないもん。きづかないままずっとあそんで、あるときとつぜんきづいても、きっとこわれてるとかいないとか、もうかんけいないんだよ」
「……なぜ?」
「そのころにはきっと、そのオモチャはタカラモノになってるから。こわれてたからって、すてたりできないよ。もしそれでもオモチャがなおりたいっておもってたら、そのときはがんばってなおすよ。だって、だいじなだいじなタカラモノだもの」
「……」
「…骸君?」
白蘭は不安げに骸を覗き込むが、当の骸は何か考えるように意識を沈ませているようで、ぼうっとしている。
その頭に、ぽすんと綱吉の右手が乗せられた。
「…っ!」
予想外の事態に骸は瞬時に意識を浮上させ、綱吉を見た。その横では白蘭が、あ〜ぁ、とでも言いたげに意地の悪い笑みを浮かべている。
(骸君、触られるの嫌いなんだよね〜。さっそく壊しちゃうんじゃないかな、このオモチャ)
しかし白蘭の予想が現実になる前に、綱吉は緩やかに骸の頭を撫でた。
「まえにすすむことを、あきらめちゃダメだよ」
「…!!」
骸の手には、確かに三叉の短剣が握られていた。だが、それが肉に埋まることはなかった。
「…綱、吉君…僕には、触らない方がーーー」
「こわいの?」
「…!」
言葉に出来なかった感覚の正体を言い当てられた気がして、骸は言葉を失った。
怖い。ばれてしまうのが。拒絶されるのが。蔑まれるのが。暗い興味を誘うのが。
そうか、これは恐怖、なのかもしれない。
「いまはこわくても、いつかきっと、ムクロはタカラモノになれるよ」
綱吉は、水面に煌めく太陽のように微笑んだ。ちかちか眩しくて、裏に潜む悪意を見透かすことができない。骸はなんとか真意を探ろうと綱吉を見つめるけれど、太陽の裏側なんて、結局同じ太陽に過ぎないことを思い出す。それには裏も表もなく、等しく眩しいだけ。
「………綱吉君」
「なに?」
ずっと骸の頭を撫でていた手を止めて、綱吉は首を傾げた。温もりが消えて、骸は少し寂しく感じた。最初から温もりなんて感じられない身体なのに。
「もう少しだけ、オモチャを壊さないであげます。だからそれまではーーー」
僕と遊んで下さい。
囁くように紡がれた言葉に、綱吉は元気に頷いた。
「…ホント、気まぐれだよね〜、骸君」
小さく呟いた白蘭の声は、骸に届いていた。確かに届いていたけれど、届いただけだった。
「さあ、何をして遊びましょうか」
2008.8.17
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