最終話.双
『ツナ君、気付くかな?』
「決まっているでしょう。気付く方にチョコレート10キロ賭けたっていい」
『はは、どんだけチョコ好きなの! あ、僕は勝負にならないから賭けないよ』
「おやおや、つまらない」
『ブックブクに太った僕なんて見たくないもん。あとはじゃあ……うん、ツナ君はどんな顔するかな?』
「それは……、大体予想はつきますよ」
『……そうだね』
「…………」
『やっぱり、辛い? 代わってあげられたらいーんだけど……、ごめんね、無理だからさ』
「別に、どうってことはありませんよ。とっくに心は決めてますし」
『あらら、つれないなぁ。もうちょっとガッカリしてくれてもいいんじゃない?』
「そんな可愛気、持ち合わせていませんから」
『なーに言ってんの、十分カワイイのに。本当だよ? 僕の気持ち、ダイレクトに伝わってるでしょ』
「……あぁ。僕、今初めて吐き気という感覚を理解した気がします。なるほど、最悪ですね」
『ちょ、地味にひどいよ、ソレ!!』
「クフフ、冗談ですよ、冗談。でも、そういう薄気味悪いことを言うのは金輪際やめてくださいね。思い出すだけで気持ち悪い。ああ、また吐き気が……」
『ひどっ!!』
「ぷっ、クフフっ、クフフフ! 半分は本当に冗談ですって。ええ、半分はね」
『もー!』
「クフフフ」
黒く厳めしいロングコートから白い綿毛のような髪を除かせる青年は、淡々と一定のペースで深紅の絨毯の上を進む。成人前のまだ少し幼さの残る顔はやんわりと苦笑に歪み、時折くすくすと肩を揺らせば簡単に『苦』がとれた。彼は、人目も気にせず、ほころぶように笑う。それはとても平和な光景で、眩しい光の中の世界に思えた。
しかし、穏やかに紡がれる会話は、その実、一人分の声しか音を成していなかった。白と黒の一際強いコントラストの中でも儚げな印象が付きまとう青年はただでさえ好奇の視線を集めるが、今は不審げな目を引くばかりだ。廊下の脇に配された黒尽くめの守衛たちなど、今にも武器を構えそうなほどに緊張している。
青年の存在は異質だった。
紡がれる言葉も、白い髪も。
紅と菫色の、異色の双眸も――。
「あ、あの!」
青年の『会話』に、まったく別の声が割り入る。
一歩ほど離れて青年に続く正一の、震える声だった。
「……なあに? 正チャン」
青年はすぐに足をとめて振り返り、先程までとは別の笑みを見せる。仮面のような、整い過ぎた笑みだった。
「なっ……い、いえ、なんでも、ありません……」
必死にそれだけ告げて、正一は俯いて目を逸らすことだけを考えた。よく知る顔がこちらを向いただけなのに、奇妙に恐ろしく感じたのだ。
そんな正一の動揺に気付いたのか、彼は笑みの種類を変えた。顔は同じだが、それはどこかからかうような、愉快そうな微笑だった。
「クフフ、ちょっとしたおふざけですよ。ごめんなさい、正一」
口調すらも変わったそれに、正一はカッと頭に血が上るのを感じて彼を睨み付けた。
「そっ、そういうの、悪趣味過ぎると思います! 僕はまだ納得出来たわけじゃないんだ!!」
思わず怒鳴ってしまってから、正一はすぐに我に返ってしゅんとした。なんとも忙しいのは、いつになっても変わらない。きっと一生そうなんだろうと、正一自身感じていた。
「……すいません。忘れてください」
こんなことを今ここにいる彼に言ったところで何の意味もない。正一にはそれがよくわかっていたのに。今更何を言っても、詮ないことだ。
青年は苦悩する正一の頭に手をやり、くしゃりと子供にするように撫でた。
「……っ、あの……!?」
「正一。全部終わったら、あなたにすべてを任せようと思います。ミルフィオーレの財力を使って好きな研究をするもよし、解体してただの学生になるもよし、いっそ慈善事業を始めたっていい。あなたの好きになさい」
「え……」
「この大仕事が終わったら、僕らはもう俗世には関与しない。……穏やかに、生きてみたいんです。兄弟だけで、今度こそ。僕らなりの『普通』を、どこか遠くへ探しに行く。やっとスタートラインに立ったのですから」
「…………!」
彼を――いや、彼らを知っている正一だからこそ、その言葉には沈黙をもって返すしかなかった。自分は所詮、部外者なのだ。彼らが望む世界には、もういられない。正一はそれを誰よりも理解していた。
青年は、話は終わったとばかりに足を動かす。それは決して拒絶の態度ではなかったけれど、断絶の気配が薫った。
でも、と正一は深く息を吸い、吐く。少し前を行く全体的に白が目立つ青年は、時折頷いたりクスクスと笑ったり、正一には見えない誰かと会話をしているようだ。そこだけで完結している世界に、もう一度声をかける。
「あの!」
彼は声をかけられたことに数秒経ってから気付いたらしい。ひょっとしたらもう、正一のいるこちらの世界とあちらの世界との間には透明な隔たりが生まれているのかもしれない。
彼は数歩進んだ後に立ち止まり、正一の方を振り返った。穏やかな笑顔が印象的だった。
「なんです?」
その声も、菫色と紅色からなる二つの瞳も、やはりどこか遠く感じた。
「……白蘭、さんは……、僕の、親友は。そこに、いますか」
ぎゅっと左手で右手を押さえ、正一は青年の菫色の左目をじっと見つめた。その奥に、共に過ごした友人の影を探して。
「……ええ」
青年は淡く曖昧に微笑んだ。死体を操っていた時のままに、感情は読み取れない。淡々と、事実だけを述べる姿勢だった。
「白蘭は、あなたが寂しくて泣きはしないかと心配していますよ」
「話す、ことは……?」
「出来ません。君の言葉は、白蘭には届かない。ああ、僕を介せば可能ですが」
「僕は白蘭さんと直接話がしたいんです!」
「……不可能ですよ、正一。白蘭の声は、君には届かない」
「でもっ、そこにいるのなら、話くらい……っ」
「無理を言わないでください。ほら、白蘭に笑われていますよ。正ちゃん、ワガママ言ってるの? 骸君を困らせたら駄目だよ――だそうです」
「わ、わが、ままっ、なのは、白蘭さんの方です……! 何度も何度も、止めたのに、全部……全部、無視、して……! 僕の気持ち、なんて……全然気にしないんだからっ」
「…………」
「ガキっぽいあなたの友達なんて……っ、僕にしか、務まらないんですよ……! ワガママで、傲慢で! バカみたいに一途なあなたのサポートは、僕にしか出来ません!」
「…………」
「ねえ、白蘭さん!!」
痛いくらいの叫びが、広い廊下にこだまする。十数メートル後方の人間ですら振り向く声だった。正一は真っ直ぐに青年を見つめ続ける。
菫色の瞳が、瞬いた。
「ゴメンね、正ちゃん」
正一は息を呑んだ。同じ声なのに、随分と久しぶりのような気がした。懐かしさが胸にこみ上げる。
「びゃく――」
「友人は選びなさいね、正一。腐れ縁にしたって、白蘭なんて悪趣味ですよ。オススメしない」
淡々と、けれど少し寂しそうに、青年は告げる。懐かしさは、あっという間に過ぎ去っていた。
「じゃあ、正一。君はここで――」
「それでも!」
「……!」
正一は、無理矢理に笑って見せた。
「あなたと一緒に過ごした日々は、意外と楽しかったですよ。――白蘭さん」
引き攣った笑顔を凝視して、青年は呼吸を忘れたように時をとめた。左の菫色が少し濃くなった気がした。
「……変な正チャン!」
遅れて返した彼は、奇妙に捻くれた笑みを浮かべていた。満面に広がりつつも違和感のある、仮面の笑顔。けれどそれでも、奥にある感情を隠し切れてはいなかった。
「幸せになってくださいね、二人とも」
正一はそっと、儚げに手を振った。その脳裏には悪友とも親友とも呼べる友人の微笑が蘇り、すぐに消える。過ぎた時は、戻らない。
「……ええ。君もね」
青年は正一に背を向け、ひとり歩き出した。
貝を基調にした紋章が重苦しい扉を飾る。両サイドには厳めしい黒服とサングラスで緊張感を隠した男が二人。随分と体格のいいドアマンだと、青年は笑いを堪えた。
「ボディーチェックを」
「どーぞ?」
促されるままに両手を広げれば、男たちは前後からぺたぺたと青年の身体の隅々に手を当てる。
「ああ、変な感じ。これがくすぐったいって感覚ですかね」
「何か?」
「くふふ。いいえ、何も」
堪えきれずくすくすと笑う青年は、どこか嬉しそうに見える。それは男たちの目には不気味と捉えられ、早々にボディーチェックを切り上げて即座に離れた。その行動がまたおかしくて、青年はまた笑う。
「……っ、もういい。早く奥へ行くがいい」
不機嫌に言い放ち、男たちは荘厳な扉を開け放った。その先には更に扉があり、そこにはドアマンはいない。扉と扉の間の僅かなスペースは暗く、光は一切なかった。
青年は臆することなく進む。背後で扉が閉められ、辺りは闇に包まれた。
「…………」
そっと、前の扉に触れる。ひんやりとした金属の感触があった。
「冷たい……」
確認するように呟いて、彼はそれを握り込み、強く押す。眩い光が広がった。
「こんばんは。ボンゴレ以下、マフィア界の権力者の皆様」
そこには、かつて日本にあったボンゴレ邸とよく似た景色があった。いかにもな赤色やところどころに配された金色は、単純に豪奢な印象を与えやすい。そんな人工的な輝きを受けて、肥えた老人たちが一斉に脂ぎった視線を向けてくる。しかしそんなものは青年の興味を引くに値しない。
「今宵はお招きくださりありがとうございます。ボンゴレ十代目」
青年は目を閉じて恭しく一礼した。今日の主役たるボンゴレ十代目、綱吉に。
「白蘭! よく来てくれたね!」
円卓にちょこんと座っていた綱吉はすぐに立ち上がり、ほっと安堵の息を吐いた。ただ、つい浮かれて名前を呼んでしまったのはまずかったらしく、傍に控えた右腕――ジョルジョが諌めるような視線を寄越していた。綱吉はコホン、とひとつ咳払いをして、満面の笑みで青年を迎える。
「ようこそ、ドン・ミルフィ――」
そこで、綱吉は驚愕を貼り付けて硬直した。頭を上げた青年の瞳に目を奪われ、縛られる。なんで、と小さく呻いて、綱吉は遠き日を共に過ごした人の名を舌に乗せた。
「むく、ろ……?」
少し引き攣ったような声はたくさんの感情に溢れていた。意識が遠のくような錯覚に足が震え、動きを制限する外套のおかげでどうにか立ち続けることには成功しているが、重力の方向はわからない。世界がぐるりと渦巻くようで、空気がねっとりと感じられた。
「ドン・ボンゴレ? どうされた?」
隣席の男が綱吉の異変に気付く。しかし綱吉の視線は白髪の青年に固定され、答える気配はなかった。
「君と僕の仲だし、もう無礼講でいいよね? ふふ、久しぶり。元気にしてた?」
複数の視線も気にせず、ひらひらとわざとらしく顔の横で手を振る彼に、綱吉は視線をさまよわせることすら出来ずに言葉を探した。
「……っ、あ、の……」
なんとかそれだけ口に出したものの、それには何の意味もない。その後に何か続けることも、気の利いた冗談を言うことも出来なかった。綱吉は必死に真実を見出だそうとしたが、それもうまくはいかなかった。理解は遠く追い付かない。
「どーしたの? 顔色わっるいよ? ――なぁんて。クフフ、冗談ですよ」
彼は肩を揺すって悪戯が成功した子供のように笑う。クフフ、クフフ。特徴的な笑い方は綱吉のよく知るもので、だからこそ綱吉は言葉を詰まらせた。何もかもがわからない。
「ごめんなさい、少しふざけ過ぎましたか? いけませんね、浮かれてしまって、どうにも加減がつかめないようです。……そんな顔をしないで、綱吉君」
彼がゆっくりと円卓に歩み寄ると、その奇妙な気配に付近の重鎮たちは椅子を引く。盛んな目配せには警戒が滲み、それぞれが連れている右腕たちは臨戦態勢をとった。それでも青年は綱吉だけに意識を注ぎ続ける。綱吉もまた同様だった。
「困らせるつもりはなかったんです。ただ、最後に一目会いたかっただけで」
「さい、ご……?」綱吉は裏返った声を絞り出す。
「なに、言ってるの? なんで……っ、ねぇ、なんで? 何が、どうなって、こんな……! なんでなんだよぉ……!」
一度口を開いてしまえば、言葉はとめどない。なぜ、なぜ、と繰り返して、綱吉は事態を否定するように後ずさる。綱吉の直感は少しずつ真実を感じ取っていた。勝手に涙が溢れて頬を伝う。
「十代目!」
主の失態にジョルジョは焦りの声を上げ、綱吉と白蘭の間に割り入る。
「貴様! 下がれ道化が! 我がボスに何を吹き込むつもりだ!?」
「…………」
白蘭は微笑を歪め、軽く首を傾げた。
「ボス? ツナ君を貶めるのはよしてよね。ツナ君は……綱吉君は、そんなものじゃない」
「何を言うか! それ以上の冒涜は我々ボンゴレへの敵対行為と見なすぞ! 生きて帰れるなどと思うな!!」
「く、ははっ! くははは! ぷっ、くくっ、ええ、笑っちゃいますよねぇ、白蘭」
腹を抱えるように大笑いして、白蘭は自分自身へと同意を求める。人格が定まっていないような物言いは不気味で、未だ傍観に徹していた者たちも次々と立ち上がり警戒を露にする。皆の視線が、『彼』へと集まっていた。
「ふふ、くふふふ。穢らわしい……。どいつもこいつも、同じ穴のムジナばかり。本当……虫酸が走るよ」
「貴様ァ!」
ジョルジョが懐から銃を抜き放つ。
「待っ――」
とすっ。
え、と綱吉が上げた小さな声は、重い物が床に倒れる音に掻き消された。
「ジョル、ジョ?」
あっさりと転がったジョルジョの身体からは、見覚えのある三叉の短剣が生えていた。心臓を、貫通している。
「ひっ……!?」
綱吉の悲鳴に弾かれるように、その場にいた全員が銃を構えた。すべての銃口が白蘭を狙い、けれど余裕めいた笑みを前にして誰も引き金を引くことが出来ない。異常な空気が充満していた。
「クフフ……」
その直中で、白蘭はゆっくりと一枚の羊皮紙を手品のように取り出した。そして――円卓に叩き付ける。
「ミルフィオーレは、現時点をもってボンゴレおよび全マフィアに宣戦布告する」
白蘭以外の誰もが言葉を失った。まばたきも呼吸も忘れ、凍りつく。
「聞こえなかったかなぁ?」
痛いくらいの視線を肌で感じながら、白蘭はひょいと円卓に飛び乗って中央のボンゴレの紋章を踏みにじる。
「死にたいヤツは……ほら、手っ取り早くかかってくるといいよ」
余裕を崩さぬ彼の姿に、誇り高きドンたちは憤怒に顔を歪めてわなわなと震えた。
「正気か白蘭!!」
「なめるな若造風情が!!」
「領土を食い荒らす白ウサギが、図に乗るな!!」
口々に怒声と唾とを飛ばす男たちとは対照的に、彼はハイハイと適当に手を振って応える。
「あんまり興奮すると血圧ヤバイんじゃないの、クソジジィのみなさん。それに、口の聞き方も……ヤバイよ?」
空気の異変に真っ先に気付いたのは綱吉だった。
「みんな、逃げっ――」
白蘭の唇が不気味な三日月を描く。
「な、にをっぉおおお!?」
「なっ、が……っ、ぁあっ!!」
「あっ、あぁっ……ああああッ!!」
綱吉と白蘭以外の全員が絶叫を上げる。皆異様なほどに目を見開き、次いで爪が食い込むほどに頭を押さえてのたうち始めた。音程の定まらない歌に合わせた奇妙な円舞のようだ。異変に気付いた警護の人間が部屋に入って来るも、即座に歌い手の仲間入りを果たす。
「はははっ、い〜いカンジにハイだね! でも老後の運動にしてはキツそうだ。可哀相だから……、クフフ、リタイアさせてあげましょう」
狂った舞台の上で白蘭はくるりと回る。その手には三叉の特徴的な槍が握られていた。
ひゅ、ひゅひゅん。軽やかに銀色の残像が帯状に流れる。
「ひっ!!」
ボールのような首が複数、ごろごろと絨毯を転がった。残された不格好な身体は、赤い飛沫を高く飛ばして首を追うようにして倒れる。いくつかの赤い点が綱吉の頬を飾った。
「なんで……。な、んで……!」
ぽたぽたと涙を零す綱吉の元へ、紅い瞳をぎらつかせた白蘭がふわりと降り立つ。
「上層部がいなくなったファミリーは、結束をなくすでしょう。ミルフィオーレの戦力を持ってすれば、烏合の衆と成り下がった者たちなどひとたまりもない。そうなれば、あとは――」
白蘭の手が、綱吉の顎に触れる。
「君がいなくなれば、マフィアは終わる」
ぐ、と綱吉の頬を白い指が拭った。鉄の臭いのする赤は消え、柔らかな肌が曝される。傷ひとつない、綺麗な肌だった。
「な、に……? なに、それぇ……っ?」
綱吉はもどかしさに胸を押さえ、必死に言葉を探した。何を言えばいいのだろう。何から言えばいいのだろう。言いたいことがたくあんあって、聞きたいことがたくさんあって、浮かんでは後回しにされる言葉は、どれもこれも的を外しているように思えた。
「ねえ……、全然、わかんないよ。俺にはわかんないよ。教えてよ、骸!!」
悲鳴めいた叫びは静寂に満ちた室内に鋭く響き渡った。
「……さあ――」
なんでだろうね。白蘭は――骸は、ゆっくりと告げる。
「本当のところは、僕らにもわかりません。どこかで何かが狂ったのかもしれない。狂った何かが元に戻ったのかもしれない。何が正しいとも言えない。間違っているとも言えない。でもひとつだけ言えることは、これが僕らの意思だということです。僕は、白蘭からの十年分の誕生日プレゼントを受け取った。僕ね、温度がわかるんですよ。味もわかる。匂いだって。傷付けば痛みを感じ、命を感じる。それに何より……白蘭を、感じる」
白蘭であり骸である指が、自身の菫色の左目をなぞる。
「僕は今、確かに生きている。生きていると、実感している。ようやく生まれることが出来たのですよ。初めて知ることがたくさんありました。生きるということは、気持ちがいいんですね」
穏やかな声に、綱吉は溢れ出す感情を抑えきれず、視線を床へ落とした。ぽたりと続いた輝きに気付き、彼は綱吉を腕に閉じ込めた。白い髪が、綱吉の蜂蜜色の髪と混ざる。
「これが、あたたかいということ……なんでしょう? ふふ、ぽかぽかする」白蘭は噛み締めるように呟く。
はっ、と綱吉が顔を上げれば、そこには今まで見たこともない穏やかな笑みを浮かべた親友がいた。
そして頬に口付けられ、熱く濡れた舌に撫でられる。
「涙は優しい味がする」
確認するような声に、綱吉はまたぽたりと床を濡らした。
「そして――」
顎を軽く上向かされ、静かに目を閉じる。
「ん……」
口内に入って来た熱い舌は、綱吉の舌を僅かに愛撫して出て行った。
「君は……苦いんですって。ふふ、ならチョコレートもマシュマロも、苦いうちに入ってしまいますね」
「骸……」
「マフィアなんて、君には似合いませんよ」
もう一度強く抱きしめながら、彼は何か丸い物を綱吉に握らせた。
「……!」
硬質でひんやりとした感触に、綱吉もまた彼を強く抱きしめ返した。繋がりが絶たれてしまうのが、恐かった。
「クフフ。大好きな綱吉君。優しい綱吉君。君の居場所はここではありません。もっと普通の、当たり前の場所がふさわしい。血も銃弾もない、平和な場所。そして――」
――そこは、血に塗れた僕らに穢されてはならない。
慈しむような声に、綱吉は悲愴な表情で彼に縋り付いた。首を左右に振り、駄々をこねるように彼の背中に爪を立てる。離れたくない。別れたくない。ただその一心で、強く強くしがみつく。ぶつりと皮が裂ける感触があって、爪の先に生温い液体が滲んだ。
「クフフ、痛いですよ。痛みも新鮮ですけど」
「……俺だって、痛い。胸、痛いよ。ひとりは、寂しいよ。手紙の約束……、守れなくて、ごめん。置いていかれるのは、悲しいよね。俺、ひどいこと、した。ごめんね。ごめん……。でも、俺を置いて行かないで……っ。二人がいないなんて、俺、耐えられないよ。お願いだから、行かないで……俺を置いて行かないでよぉ……!」
ぽつぽつと肩に降る濡れた温かさも、きつく抱きしめられる痛みも、骸は慣れない感覚を研ぎすまし、綱吉のすべてを感じていた。
「君は気持ちいいですね。……ずっとこうしていたいくらいに」
「なら、ずっとこうしてればいいだろ……!」
「無理ですよ」
「無理なんかじゃない!」
「じゃあ、駄目、です。……クフフ、白蘭が君に嫉妬してる。骸君にひっつかないでよ、ですって」
「そんなの……っ、俺には、聞こえないよ……。聞こえるように、言ってよ……!」
「それもまた、無理ですよ。綱吉君、あまり白蘭をいじめないでやってください。案外、あれでも繊細なんですから」
「そんなの、知らないよ。いっつも、知る前に離れることばっかりだったよ。これから、たくさん知っていきたいよ。骸のことも、白蘭のことも。たくさん話したいことがあるよ……! 一緒にやりたいことがまだまだあるんだよ!」
だから、と綱吉が口にする前に、骸の指が綱吉の唇をとめる。
「綱吉君。君はいつか言っていましたね。離れることでしか得られないものもある、と。離れても、会いに行けばいい。けれど、離れないことで何かを永遠に失ってしまうこともあると。きっと今がそうなんです。君には、僕らと離れることでしか得られないものがある。それはきっと、とても素敵なものです。それにね、これは永遠の別れではありません。いつかまた、会うこともある」
「……!」
「君は僕らの理想です。『普通』に憧れた僕らの、理想の姿。ありふれた、普通の幸せを掴んでください、綱吉君。僕らに縛られないで」
「むく――」
「大丈夫ですよ。僕らがいなくても、君ならきっといい友達が出来ます」
骸の手が綱吉の唇を離れ、綱吉の両の瞼を覆う。
「や、やだ、待って骸、俺はっ……ふ!」
唇と唇がほんの僅かに触れ合う。それが離れた時――
「またね、ツナ君!」
とん、と首筋に衝撃が走る。
「や――」
別れを告げることも出来ず、引き止めることも出来ないまま、綱吉の意識は光をなくす。
崩れ落ちる間際、綱吉は紅と菫色の双眸から零れる涙を見た――。
マフィアと名の付くものは、もう存在しない。
綱吉にわかるのは、その事実だけだった。
つけっぱなしのテレビが朝のニュースを告げる。
今日のトップニュースは某有名芸能人の結婚だった。何やら幸せそうな美男美女がパシャパシャと連続するカメラのフラッシュを浴びていた。出会いは人気ドラマの撮影で、事務所も公認。思わずホッとするような笑顔が印象的だった。そして女性の方が大きなダイヤのついた指輪をカメラに向ける。
(ダイヤでっかー! あれは高そうだなぁ。でも、アレ買うくらいなら漫画百冊買う方が有意義な気がする……)
ついこの間まで大粒ダイヤの百や二百、軽くポケットマネーで買えたとは思えない思考だった。画面の中ではリポーターがその指輪の価値を語っている。どうやら車一台分くらいらしい。リポーターが大袈裟に驚いているが、綱吉は車なんて買ったことがないのでよくわからなかった。
『それでは、次のニュースです』
リポーターの言葉を合図に、画面は別の記者会見に切り替わる。芸能関係ではないらしく、堅そうな会見だ。赤茶色の髪に分厚い眼鏡が特徴的な若社長がリポーターの質問を受けている。
そんなことより。画面の端の時刻表示がまたひとつ動いたことの方が綱吉にとっては一大事だ。
「母さーん、弁当まだー?」
綱吉は狭い台所に向けて声をかける。母のエプロンがぴょこぴょこ動いているのが見えた。
「はいはい、今包んでるわ」
「早くー!」
今現在、遅刻かセーフか実にギリギリのラインだ。ただでさえ高三の春過ぎというおかしな時期の転入で様々な憶測を呼びそうなのに、そこへ更に遅刻というマイナス要素を加えるのは避けたい。なんとしても避けたい。なので、綱吉の声は少し焦っていた。かといって、成長期の身体には昼飯抜きだなんて大胆なマネは出来ない。とりあえず玄関に向かい、靴だけ履いて母を待った。
少しして、ぱたぱたとスリッパの音がやってくる。
「お待たせ。行ってらっしゃい」
「ありがと。行ってきます!」
若草色の包みの弁当を受け取ると、綱吉は全速力で玄関を飛び出した。
「気をつけてね〜!」
母の声が背中に遠ざかるのを聞きながら、綱吉は朝の雰囲気が清々しい町並みを駆け抜けた。
すぅ、はぁ。一回目。
すぅ、はぁ。二回目。
すぅ、はぁ。三回目。
「そういうわけだから、季節外れの転入生だ」
すぅ、はぁ。四回目。
すぅ、はぁ。五回目。
すぅ、はぁ。六回目。
「受験だなんだと忙しいだろうが、よろしくな」
すぅ、はぁ。七回目。
すぅ、はぁ。八回目。
すぅ、はぁ。九回目。
「よし、沢田、挨拶だ」
すぅ、はぁ。十回目。
過剰なほど深呼吸を繰り返し、綱吉はグッと腹に力を入れる。
(始まりが肝心!)
かつて口うるさい右腕から教わったことを思い出し、綱吉は口角を無理矢理に吊り上げた。
「きょ、今日からこのクラスに、お邪魔、します! 沢田綱吉っ、です! よ、よろしくお願いしまッ――!!」
ズガンッ!!
物凄い勢いで腰を折ると、物凄い勢いで額が正面衝突した。
「ッたぁ〜〜〜〜!」
「お、落ち着け沢田……」
担任教師に肩をぽんぽんと叩かれ、綱吉は慌てて背筋を伸ばした。
(始まりが肝心! 始まりが肝心!! 失敗しても慌てず落ち着いて周囲の状況を見て適切な判断をうんぬんかんぬん……)
「おい、沢田? 大丈夫か?」
「はははははっ、はいっ! 大丈夫でございますッ」
(ございますって何だー!!)
何やらいろいろなことが空回りしていた。元々綱吉はあまりこういったことは得意ではないのだ。いつも骸が傍にいて、友達を作る必要もなく、自己紹介をする必要もなかった。骸に頼り切りだったのかもしれない。(……ひとりでも、頑張らないと)
制服のポケットを撫でる。硬くて丸い感触があった。ほんのりと心に暖かい空気が満ちて、脳裏に穏やかな微笑が浮かぶ。
「沢田、本当に大丈夫か?」
「えっ、あ!」
知らず知らずのうちにぼんやりとしてしまっていたらしい。初老に足をかけた担任教師が心配げに綱吉の顔を覗き込んでいた。
「す、すいません、大丈夫です! え、えーと……えーっと……あー……。な、何言うか忘れました……」
かなり時間をかけて自己紹介を考えた上でバッチリ覚えてきたはずが、いつの間にやらスポンとどこかへ行ってしまったらしい。
「ま、まあ、とりあえず席につけ」
あわあわしつつも、綱吉はとりあえず担任に言われるままに最後尾の席へ向かう。
「あっはは! 面白いヤツが転校してきたのなー! なっ、獄寺!」
綱吉が示された席の隣には、いかにもスポーツ少年といった出で立ちの短い黒髪の少年が座っていた。快活に笑いながら、前の席の銀髪の少年の背中をごすごす叩いている。
「っ、叩くな野球バカっ!! イっテェんだよコノヤロー!」
ごすっ。
「ぶほっ!」
銀髪の方の少年が苛立ちに耐え切れず身体ごと勢いよく振り返った瞬間、その腕が席に着こうとしていた綱吉の鳩尾にヒットした。もろに急所である。その結果、小柄な綱吉はもろに床にキスをする羽目になった。
「あ……! お、おい!」
「あー……。だ、大丈夫か、沢田?」
さすがに罪悪感が生まれたらしく、少年二人は綱吉を覗き込んだ。銀髪の少年はバツが悪そうにおどおどとしていたが、黒髪の少年はすぐに綱吉に手を差し延べる。
「いて、ててて……。だ、大丈夫、です」
素直にその手をとり立ち上がった綱吉に、黒髪の少年は苦笑を返す。
「はは、なんで敬語なんだ? タメグチでいいって! 同い年なんだしな」
「あ、そ、そーだよね。じゃ、じゃあ、あの……あー……名前、なんていうの?」
「ああ、山本武ってんだ! んで、そっちで謝ろうにも謝れないでいるのは獄寺隼人なー」
山本はくい、と親指で綱吉の背後にいる銀髪の少年――獄寺隼人という名前らしい――を指した。
獄寺は綱吉が振り向いた途端に視線をあちこちにさまよわせて、なるほど確かに謝りたそうにしていた。
「あ、ごめんね、獄寺くん。俺、昔から鈍臭くて……」
困らせてしまったことが申し訳なくて、綱吉は謝った。
「んなっ!? さ、先に謝られたらっ、どーすりゃいんだよ……っ」
獄寺はますます慌てて、ガリガリと頭を掻いた。視線は明後日の方向を向き、苛々としているように見える。
「え、あ、ご、ごめん!」
「だっ、だからっ……だ、だからだなぁっ……!」
「獄寺顔真っ赤なのなー!」
「うっせー野球バカ!! 元はと言えばおめーがあんなことしなけりゃよかったんだよ!!」
獄寺は机の上に置いてあった灰色のペンケースを取り山本に投げつける。
「おおっと!」
山本は笑いながら定規でそれを打ち返した。動体視力がいいらしい。ちなみに、飛んでいったペンケースは見事に獄寺の開きっぱなしのカバンに入った。
(はは、ホームラン!)
「これだから野球バカは厄介なんだよ! ったく……!」
素直に感心する綱吉とは反対に、獄寺は机に片肘をついてふてくされてしまった。どうにも激しいが、同時にとてもわかりやすい人物のようだ。
とりあえず、いつまでも突っ立っているわけにもいかないので、綱吉は山本の隣の席に座った。
「転入早々に悪いな」
「ううん、全然。ところで、さっき野球バカって……。山本くん、野球するんだ?」
「ん? ああ、野球しか取り柄ねーんだ。あ、それから、『くん』なんてつけなくていいぜ。背中がムズがゆくなんのな」
「はは、わかった、山本ね。じゃあ俺のことは――」
『綱吉君』
『ツ〜ナ君』
ふたつの声が、遠く蘇る。懐かしくて、切なくて、暖かい。
(俺は、二人の理想。二人の願い。普通の、ありふれた日常を得て、いつか……二人とまた、胸を張って会えるかな)
綱吉は無意識のうちに制服のポケットの中に手を差し入れ、ひんやりとした球体を握っていた。それはただの蒼いビー玉だけれど、そこから力強い何かが溢れてくるような、そんな気がした。
「……ううん、なんでもない。よろしくね、山本! それに獄寺くんも!」
「ああ、よろしくな沢田!」
「お、オレはっ、別に……!」
「はは、獄寺顔真っ赤なのなー」
「あ、ホントだ」
「うッ、うるせぇぇぇえ!!」
「お前らもう授業中だぞ!!」
新しい日常は、とても騒がしかった。
「陽射しが暖かい……」
土の匂いのする風がひゅぅ、と頬を横切る。若い稲穂がたっぷりと揺れる様は美しく、緑の海のようだった。大きな入道雲が遠くに見える空は高く澄んでいて、太陽は惜しげもなく照る。ざりざりと靴裏に感じる乾いた砂利は、一歩ごとに微妙に違う音がした。
見渡す限りに誰もいない地を、一人の白髪の青年はただのんびりと歩き続ける。
「風も丁度いいな」
『ふふ、こういうの、昼寝日和って言うんだよ』
「なるほど。こんな陽気なら、さぞ気持ちがいいでしょうね」
『でもすぐに蒸し暑くなるかな。もう春も終わる頃だもん。空が青くて夏が近い』
「そうですか。季節とは、こんなにも変化に富むものだったのですね」
『うん。春には花や若草の香りがしてね、夏は汗ダラッダラでね、秋は食べ物がおいしくてね、冬は人肌が恋しくなるの』
「それは飽きが来なくていいですね」
『一年ってけっこー愉しめるもんなんだよ。今までは……わかんなかったと思うけど」
「ええ……。僕は何も知らなかった。今は、見るもの触れるものすべてが新鮮に思えます」
『気に入った?』
「気に入らないなんて言ったら、罰があたるでしょう」
『はは、まさか! だって僕、君にあげた分よりもたくさんのものをもらってるもの。悔いなんてないよ。春の匂いも夏の暑さも秋のおいしさも冬の寒さも感じられなくていい。そんなのよりね、君の心がこんなにもそばにあることが嬉しいよ。これなら、不器用な僕でもうまくいく。ねえ、僕の愛情、伝わってる? 溢れてとまらないんだけど』
「伝わってますよ。馬鹿みたいに真っ直ぐな気持ちがね。……もう少し隠しなさい」
『ふふっ、無理無理。どんどん伝わっちゃってよ。十年も溜め込んでたんだから、底は尽きないよ』
「…………」
『これからはさ。ゆっくり、静かに過ごそう? 二人でさ、な〜んにも考えずに、の〜んびり』
「……ええ」
『ちょっと、疲れちゃったもんね。兄弟水入らずで休暇を愉しもうよ。ね?』
「ええ、いいですね。あなたとこんなに近しいのは、随分と久しぶりな気がする」
『わ、大胆発言! 僕興奮しちゃうよ〜?』
「ひとりで興奮してなさい、バカ」
『ひど〜!』
「クフフ、クフフフッ」
くすくすと、風にまぎれて穏やかな声が響く。
「さて、と。これからどこへ行きましょうかねぇ」
『んー……北は? これから暑くなるし』
「北……。ふふ、そうですね。雪が積もるようなところへ行きましょうか」
『雪? 見たいの?』
「……まあ」
『ん? おお? あれ、ひょっとして……僕の髪に色が似てるから、とか思ってる?』
「…………」
『うわーうわーうわーっ! 何それ、すごい嬉しい! 行こう行こう、今すぐ行こう!』
「ま、まだ季節じゃありませんって!」
『じゃあ常夏ならぬ常冬な感じの国に行こう! いっそ山岳地帯とか、ずっと雪の積もってるところでもいいよね!』
「嫌ですよ! まずは暖かな気候も楽しみたいんですから。少しずつ北へ行って、冬になる頃に豪雪地域でもなんでも行けばいいんでしょう」
『ふふっ、楽しみ! なんかいいな〜、こういう日々。僕ね。こんな日が来るのを、ずっと待ってたよ。君と二人っきりになれる日を、ずっと待ってたよ』
「…………」
『僕にはもう、何にもないけど、でも、骸君がいる。こんなにも、近くに。僕はずっと、骸君だけを感じるよ。何も聞こえなくても、何も触れなくても、温度を感じなくても、痛みを感じなくても、骸君だけは、感じられる。これって、すごいことだよ。すごく……幸せなこと。やっと……満たされたなぁ……』
「…………」
しん、と静まる。立ち止まり、穏やかにそよぐ風を感じながら、彼は左目を緩くなぞった。
「僕は……あなたの温度を知りたかった。それはもう、叶いませんね」
『……ごめんね』
「そこで謝るなんて、心底馬鹿ですよ、白蘭。ブラコンもほどほどにね」
『ひっどーい! 第一、僕ただのブラコンじゃないよ。骸君のこと、全部大好きなだけ』
「……わかってますよ。それに、僕も――」
稲穂が、揺れる。強く風が吹いた。
「――いえ、口で言わずとも伝わってますよね」
彼はまたじゃりじゃりと歩き出した。
『ええー? 口でも言ってよ!』
「イヤですよ」
『言ってよ』
「イヤです」
『言ってってば』
「イヤですってば」
『お願いします、言ってください』
「本気でイヤです、絶対言いません」
『…………ケチ』
「…………怒りますよ?」
彼の足が止まる。親指で左目を瞼の上からぐりぐりと押した。
『スイマセンゴメンナサイ』
かちこちに硬くなった謝罪の声に満足して、彼はまた歩き出した。
「まあ、いいでしょう。いつか言ってあげますよ。そうですね、雪でも見ながらにしましょうか」
『ホント? 本気にしちゃうよ?』
「どうぞ。本気ですから」
『ふふっ、やったー! 楽しみ! 早く行こう!』
「急かすのはやめなさい。ゆっくり行きますよ。ゆっくり、のんびりね」
遠くの方で入道雲が形を変えていく。
空は高く、どこまでも青い。
「ああ、あったかいな」
じゃりじゃり、じゃりじゃり。
彼らはゆっくりと歩む。
一人きりで。
――けれど、二人、一緒に。
……はい。以上で、『双変奏曲』の本編は完結となります。
1年以上に及ぶ長い連載でしたが、ここまでお読みくださって本当にありがとうございました。
管理人なりに三人の幸せの形を目指しましたが、これが本当に幸せなのかは読者の皆様のご判断にお任せいたします。三人にはそれぞれに失うものがあり、そして得るものがあったと思います。
失ったものの方が大きいのか、得たものの方が大きいのか、それもまた読者の皆様のご判断にお任せしたいと思います。
とにもかくにも、書きたかったものは書ききりました。
この後は番外編で白蘭視点の過去の話を少し書きたいと思いますが、本編の方はこれにて閉幕です。
蛇足にならないようにしたいところですが、さてさて、どうなることやら。
もう少し時間をいただければと思います。
感想・ご意見などいただけましたら嬉しいです。
では、最後にもう一度。
ここまでお読みくださって、本当に本当にありがとうございました!!
2009.9.21